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【第5部】記録と反省(O-Japan 1994.11月号掲載)
「巻き尺がない!」の影に潜むもの
「池ヶ谷さん、巻き尺持っていませんか?」
設営中の計算センターにスタートのチーフが駆け込んできた。平成5年の第15回早大OC大会(『赤根が峠』)の前日のことだ。
大会を開く時、私は文房具から工具に至るまで大抵のものを持って出掛ける。この時も2mの巻き尺なら持っていた。しかし、事情を尋ねると、歩測区間を測るための50mくらいの巻き尺を探しているという。さすがにそんなものは持っていない。結局、何人かで歩測して設営したらしい。
後で詳しく話を聞くと、その前年は、ある会員が持ち合わせていた50mの巻き尺を使っていたことがわかった。しかし、この年、彼から借りる手筈は整っていなかった。さらに困ったことに、これに気づいた時、彼は用事があって出掛けてしまっていたのである。
私は考えた。これはただの事故だろうか?うっかりミスで済ませて良いのだろうか?
なぜ用意し忘れたのだろう?用意する備品を書き出してあれば防げたのではないか?
マニュアルには書いてなかったのか?なぜ当日のことしか書かれていないのだ!
去年はどうしたのだ?きちんと反省会はやったのだろうか?引き継ぎは十分だったか?
私物を借りて急場をしのいだ事実が、なぜ放置されているのだ?本来、備品として用意するなり、学校から借りるなりの手続きをするべきではないか?
巻き尺を用意できなかったこと自体は些細な問題である。しかし、この些細な問題の影には、早大OC大会の全体にかかわる問題、構造的な問題が隠れていた。小さな問題として片づけてはいけない。うわべだけの反省からは何も生まれては来ない。なぜそうなったのかを深く掘り下げていくことで問題の本質を発見できる。そして、問題の本質がわかって初めて真に適切な対策が施せるのである。
そこで、私は第15回大会のチーフたちを集めて、ここに書いたような主旨を説明し、レポートの提出を求めたのである。
経験を蓄積しよう
チーフからは、その大会で発生した様々な問題や改善ノウハウが上がってきた。
ゴールを設置したいのに地元の少年野球チームが練習をしている。父兄のクルマもお構いなしに入ってきてテントの設営もままならない。ここで大会が開かれることについて、どうやら教頭先生からほとんど誰にも伝わっていなかったらしい──。この経験から、会場交渉の際には、大会について関係者への周知を依頼することも大切であることを知った。
思えば、私たちが開いた第7回大会(『小櫃林道』)では、なんの心配もいらなかった。初めての会場交渉の日、教頭先生が機転を効かせてくれて、大会前日のママさんバレーの日程の変更を約束してくれた。私たちはラッキーだったのだ。大会の成功は好意や幸運のなせる技か?
また、レポートにはこんなことも書いてあった。
ゴールレーンの設営を始めると、鉄製の杭が錆びていて使い物にならないことが判明した。しかし、幸いなことに、この大会ではメイン会場として小学校、ゴール地点として中学校の2つの学校を借りていた。そこで小学校の方の杭を借りて無事レーンを作ることができた──。大会の成功は偶然の賜物なのか?
この経験から、会場を下見した際には学校の備品をチェックせよ、という教訓を得た。
およそ大会運営には予期せぬできごとがつきものである。実際にそういう目に遭って初めてわかる部分があることは否めない。一方で万事うまくいく場合もある。しかし、この第15回大会で起きたことをアンラッキーの一言で片づけてはいけない。事故だと決めつけることなく、どちらかと言えば悪い時をベースに考えていくべきだ。いろいろな経験を積むにつれてトラブルに対する適応力がつく。免疫ができるのである。
もう一つ例を挙げよう。
スタートで出欠チェックをする役員は参加者と向かい合って立っている。だから、参加者から見た右は役員から見れば左、左右は逆転する。レーンが参加者から見てHE→DEの順に並んでいたとすると、役員から見ればDE→HEと並ぶ。つまり、この2レーンを担当する役員は、DE→HEの順に並んだスタートリストを持っていた方がチェックしやすいわけである。
実は、これもレポートで上がってきた反省点の一つである。スタート役員をやったことがない私は感心してしまった。経験がないと気がつかない。しかし、気になったのはOC大会15年の歴史の中で果たしてこの程度のノウハウがなかったのだろうか?という点である。毎年毎年失敗していた?──そんな筈はなかろう。そこで、手元にある運営マニュアルを調べてみた。対象としたマニュアルは第6回大会以降のすべての早大OC大会と多摩OL白州2日間大会、第12回東大OLK大会のもの、原案を含む計14冊。これらに例示されている役員用スタートリストの並びがどのようになっているか、チェックしてみたのである。
調査の結果、これらの中に左右を逆転させた図を掲載していたものは1冊しかなかった。第7回大会(『小櫃林道』)のマニュアル案(桐田幸宏氏(スタート班サブチーフ)作成)である。H19Aが左、H21Aが右になっていた。念のために言っておくと、参加者側から見た別の図では左側が上位クラスになっている。したがって、このさし絵は意識的に左右を逆転させたものと考えられる。しかし、残念ながら、その後のマニュアルでは、また元の誤った並びに戻ってしまっていた。
ところで、この程度のことは気づいて当然と思う方もあろう。それを言っては身も蓋もない。きっと実際には気がついて、ちゃんとしたリストを用意しているのだろう。先日の第17回筑波大大会(『棚倉街道』)の役員もきちんと並べたリストを持っていた。しかし、気づくか気づかないかという議論より、マニュアル通りにやったらうまくいかないという事実、マニュアルにウソが書かれたまま放置されているという事実を重大視しなければなるまい。
経験しないと気がつかない。少なくとも、経験すれば誰にでもわかるような簡単なことだ。この時、経験を蓄積すれば良いのに、それをしないから一進一退の繰り返しとなる。きっと、オリエンテーリング界全体で見れば、おびただしい回数、同じ失敗を繰り返しているに違いない。どれだけのノウハウが忘れ去られているか計り知れない。
あらゆるノウハウを蓄積しよう。放置すれば忘れ去られることが必至なのだ。経験を確実にモノにしよう。そうすれば運不運や個人差の影響を最小限に抑えることができる。大会の成功を偶然から必然に近づけていくことができるのである。
データをとろう
私の在学中、オリエンテーリングにおけるロスタイムは感覚の世界のものだった。私の友人にオーバーにロスタイムを言う者がいて「あいつのロスタイムを全部差し引いたらタイムがマイナスになってしまう。」などと言って笑ったものだ。
当時、レースに関するデータは、多くの場合、ただ1つ。スタートからゴールまでの所要時間があるだけだ。優勝者とのタイム差がどこでどう生じたものなのか、その過程はわからなかった。しかし、LAP30の登場により状況は一変する。誰もが手軽にラップタイムをとることができるようになった。詳細かつ客観的なデータを把握し比較することによって、レースの解析が大きく前進したのである。結果しかわからなかったブラックボックスの中身が、データによって明らかになった。データをとることで、どこが悪いのかがはっきりわかるようになったのである。
それだけではない。データを見て、初めてそこに問題があることに気づく場合さえある。自覚症状がないまま、好ましくない状態を引きずっていることは少なくないのである。
とっておきの資料をお見せしよう。表1は第11回筑波大大会(『入四間』)の大会の際に私が実際に計測した、速報の所要時間に関するデータである。
この大会はペナチェックを後回しにすることで速報をいち早く出そうと試みた大会である。この試みには私も興味があった。ちょうどこのころ私は膝を痛めていて走れなかったため、ただ単に運営を見るためだけに日立まで出掛けていったのである。
調査の方法は簡単だ。ゴールレーンを眺めて早大OC関係者のゴール時刻をメモしておき、時おり速報板をチェックして彼らの速報が出たかどうかを見る。その繰り返しである。
結果は表1の通り、私が計測した範囲では30分を超えたケースはなかった。OC会員などに聞いてみても、ほとんど全員が「速報は速い」と答えた。成績表には速報の速さに関するアンケートの集計結果が出ていないのでわからないが、ペナチェック後回し方式の容認率も高く、運営者としては満足のいく結果であったに違いない。
| 氏名 | 所属 | クラス | ゴール | 掲示 | 所要時間 |
| 萩原 | 寿会 | HE2 | 12:36 | 12:59 | 23分 |
| 井村 | 〃 | 〃 | 12:37 | 13:00 | 23分 |
| 臼田 | 〃 | 〃 | 12:39 | 13:06 | 27分 |
| 小野 | 〃 | H21A | 12:50 | 13:20前 | 30分以下 |
| 松波 | OC | D21A | 13:02 | 13:25前 | 23分以下 |
| 瀬尾 | 〃 | 〃 | 13:04 | 13:25前 | 21分以下 |
| 西連寺 | 〃 | 〃 | 13:07 | 13:28 | 21分 |
| 近藤 | 〃 | DE | 13:07 | 13:28 | 21分 |
| 愛甲 | 早実 | H19A | 13:09 | 13:35前 | 26分以下 |
| 茅野 | 寿会 | HE2 | 13:13 | 13:40 | 27分 |
| 佐藤 | OC | 〃 | 13:16 | 13:36 | 20分 |
| 山田 | 〃 | 〃 | 13:21 | 13:37 | 16分 |
| 岡本 | 〃 | D21A | 13:27 | 13:47 | 20分 |
| 宇田川 | 〃 | DE | 13:27 | 13:45 | 18分 |
しかし、である。表1の特に茅野、佐藤、山田の部分に注目して欲しい。ゴールした順序と速報が掲示された順序が狂っている。8分先にゴールした者の速報が、3分あとに掲示されたのである。このことは、とりも直さず、計算センター内の処理の流れに乱れがあったことを示している。速報の速さは評価できる。しかし、内部的な処理方法には反省すべき点があったはずなのである。しかし、当の運営者は、このことに気づかなかったのではないだろうか。少なくとも私がOCの会報(平成元年1月号)でコメントするまでは。
このように、データがないと問題があること自体に気がつかない。問題だと思っていないから、当然、放ったらかしとなる。「知らぬが仏」ならぬ「知らぬが放っとけ」である。知らないことは恐ろしいことなのだ。
問題解決は問題を認識することから始まる。前向きにデータをとればとるほど問題点が浮かび上がってくる。かたや気づいて直す者、気づかず放置したままの者──その差は広がる一方である。
ここで注意しなけなければならないことがある。それは、データは必要になってから集めようと思っても手遅れだ、ということである。確かにデータの中には後から調べられるものもある。しかし、多くの場合、その時々に記録しておかないと復元のしようがない。
たとえば、先ほどの例でいうと、計算センターで先入れ先出しが守られているかどうかを運営者自身が知るためには、成績処理システム自体に各参加者のデータを処理した時刻を記録する機能をあらかじめ作り込んでおくことが必要だ。そう、ラップタイムによる分析だって、ポストごとにボタンを押したからこそできることではないか。つまり、データをとるためには、前もって仕掛けを用意したり、本来的には必要のない動作をするなどの手間暇をかける必要がある。この手間暇は保険のようなものだ。場合によっては、後でたいへん重宝する。そこから得られるメリットはデメリットよりはるかに大きいのである。(このページの末尾に早大OC大会における記録と改善策の例を追記した)
どのようにして蓄積するか
スタートリストの並びの話、ゴール設営時のハプニングの話を通じて、経験から得られる、ちょっとしたノウハウの例を挙げてみた。こうしたちょっとしたノウハウは、いずれも今日の運営マニュアルには書かれていない。しかし、これらの例を少し詳しく見てみると、同じ「書かれていない」でも、微妙な違いがあることに気がつく。つまり、次の2つのケースに分けて考えることができそうである。
第1は、マニュアル化の範囲内でありながら、記述が漏れているというケースである。役員用スタートリストの並びの話は、これに当たる。
第2は、今日の運営マニュアルが、はなから対象外にしているために書かれていないというケースである。会場交渉時の不具合に起因するゴール設営時のハプニングの例などはこれに該当する。
そこで、それぞれのケースについて、どのようにしてノウハウを蓄積していったら良いか、考えていくことにしよう。
大会終えたらマニュアル書こう
今日の運営マニュアルには、もともと漏れがある。大会がなんとかうまくいっているのは、皆が機転を効かせ、そこに書かれた以上の働きをしているからにほかならない。だから、これから大会を開く人は既存のマニュアルをあまり信じない方が良い。少なくとも、相当疑ってかかるべきだ。現在のマニュアルには「行間」の作業、ニッチ作業がまだまだたくさんあるのである。
また、実際に大会を開催するとマニュアルの誤りが見つかる。先ほどの役員用スタートリストの話は、その一例だ。
しかしながら、こうしたマニュアルの漏れや誤りが改善されないのには、本当に驚かされる。遅々として進まない。ほとんど前回のものの丸写しだ。大会の開催で記述の過不足や誤りが一度は顕在化しながらも、見直しや反省を行わないために、再び潜伏してしまう。そして、後の世代はそこに不具合があることを知らずにコピーするから、不具合がそのまま「遺伝」してしまうのだ。早大OC大会では、パソコンを導入した第10回大会(『二子山』)以降、役員用のスタートリストにはふりがなが最初から印刷されているのに、運営マニュアルには「ふりがなを調べて書き込む」という旧態依然とした作業が、その後も2年間に渡って書かれていたのである。
さて、そこで提案である。
大会が終わったら、マニュアルを書こう。「書く」といっても最初から作り直すわけではない。赤ペンで修正を書き入れるのである。不要な部分があれば線で消す。誤りを修正する。不足は書き足す。個人がその場で効かせた機転を書き入れる。こうして記録しない限りクラブのノウハウにはなり得ない。
大会が終わったら、直後にやろう。記憶も鮮明なうちに行えば、より短期間でより多くの情報を書き加えることができるはずだ。それも苦痛に感じることなく。
ワープロは必要ない。手書きの方がはるかに良い。以前はどうだったのか、どこがどうまずくてどう直したのかが、一目でわかる。ワープロ化するのは次回のマニュアルを作る時で良い。その時もただ単に書き換えるだけではなく、経緯やエピソードを書いておいた方が良い。第11回奈良インカレのゴールのマニュアル(桐田幸宏チーフ)には、第8回早大OC大会(『深良財産区』)や第10回群馬インカレのゴールでのトラブル事例が記されている。第12回東大OLK大会のゴールのマニュアルにも過去の失敗事例が記されている。こうした過去の事例がゴールのマニュアルに出ていること自体、非常に興味深い。示唆に富んでいる。オランダの格言は言う。「海岸の難破船は、それ自体危険を示す標識である。」と。
こうして赤入れされたマニュアルは最高の報告書であり、次回に向けた最高のマニュアルである。こうしておけば、次の世代は次の一歩から踏み出すことができる。確実にステップアップすることができるのである。
記録から始めよう
さて、問題は現在マニュアル化されていない部分のノウハウをいかにして蓄積していくかである。
一部を細かく書くくらいなら大雑把でも全体を描けと言ったのが第2回だが、欲を言うなら全体を細かく書いたものもあった方が良い。そこで、マトリクス、ネットワーク図に続く第3の資料として「マニュアルカード」を考えた。事前や事後の作業については1枚1項目のカードしようではないかというというものである。ここまでやれば完璧だろう。オリエンテーリングカレンダーの裏面に一例を示す。
しかし、これをすべての作業について作るのは、あまりに大変である。何百枚も作らなければならない。そこで、まずは記録を報告書としてまとめることから始めていこう。
報告書といっても、あらためて作る必要はない。あらためて文章を書こうとすると、本当にあらたまってしまう。抽象論になったり、ひどい場合にはただの感想文に堕してしまう。懐かしむために思い出をつづるのではない。使うための、活動の経過の記録である。
マニュアル調にする必要はない。役に立つか否かを吟味してしまうのも良くない。とりあえず、ありのままを書いておくのが良い。事実を書き並べるだけで良い。5W1Hが書かれていれば十分だ。「大会の約半年前になったら第一弾の予告を行う」と書くよりも、「昭和59年9月30日、埼玉大リレー大会において、開催予告ビラ500枚を配布」と書いた方が良い。そもそも、クラブの大会は開催時期が決まっているから、時期などは実際の日付の方が都合が良いのである。余談になるが、私が申込先を務めた第6回早大OC大会では申込締切は1月31日消印有効だった。それが第15回では12月25日消印有効になっている。開催期日は5日しか違わないのに、これはどうしたことか?
閑話休題。
とにかく、情報はありのままが良い。フィクションよりノンフィクション、ドキュメンタリーが良いのだ。『小櫃林道』の大会の時、私は交渉の過程を実際の書類のコピーを交えてドキュメンタリータッチに描いた『ドキュメント第7回早大OC大会』を会報に連載した。この連載が、当時久々に大会の開催を計画していた慶大OLCの参考になったという。一番強烈な迫力を持っているのは、事実そのものなのである。
1冊にまとめよう
さて、報告書以外にも大会に関する情報はいろいろな所に散在している。要綱、プログラム、成績表、マニュアル、会報、議事録、メモ、プリント───しかし、バラバラは良くない。これまでだって報告書を作ったことはあるはずだ。それなのに、1冊にまとまっていないためにマニュアルの方しか読まれず、改善されなかったとしたら、こんなに馬鹿らしい話はない。とにかく1冊にまとめよう。できればコピーか印刷して配布しよう。最初から報告書綴じ込み用として余計に印刷しておくと良い。配らないと、自分の持っているものだけを見て判断してしまうから、やはりダメなのだ。情報の子孫繁栄、種の保存という意味で、配布の有効性は無視できない。
体裁はどうでも良い。プログラムがそのまま表紙で良いではないか。だいたい、報告書にしてもマニュアルにしても形にこだわり過ぎだ。それでいて、肝心な中身がお留守になっている。
さらに言えば、いかに作るかより、いかに使うか、いかに活かすかが重要である。報告書を作っても、活用されなければ意味がない。情報の死蔵である。実を言うと、最初に述べた第15回のチーフたちが書いてくれたレポートは、コピーして第16回のチーフに渡したのに、第17回のチーフは見たことがないなどと言っている。まったく困ったものだ。
ところで、この報告書の媒体は紙でも良いだろう。電子化して、キーワードによる検索や大会ごとや作業項目ごとの閲覧ができたら、などと考えないわけでもないが、実情は今述べた程度のものだ。利用する側の意識というインフラが、なにしろ一番立ち遅れている。蓄積方法を洗練するのは、利用者側の意識がもう少し向上してからでも良いかも知れない。
前向きに反省しよう
私は、大会のしめくくりとして、評価工程というフェーズを設けた。ここでいう評価とは結果に対して行うものではない。過程に対して行うものだ。大会に点数をつけるような行為ではなく、開催のプロセスの善し悪しをチェックし、次回に向けてアクションを考える、見直しのフェーズである。
だいたい、今の大会は開きっぱなしである。終わったら「バンザイ!」で、おしまいだ。まさに「お開き」である。失敗したことを思い出したくない気持ちはわかる。結果オーライなんだから、いいじゃないかという声も聞こえてきそうだ。解放感も理解できる。
学生クラブには、自分たちの代の大会というのがある。中心的な存在として運営するのは4年間のうちでも、普通3年生の時の1回だけだ。それだけに思い入れも強くなるのだが、終わってしまうとすっかり解放感に浸ってしまう。
私はというと、多少例外的だったかも知れない。1年から4年まで一貫してプログラム編集に携わった。そんな経験から「今度こそ」「次は」と考えるクセがついたのだろう。
反省は後ろ向きの作業ではない。次回に向けた前向きで建設的な、創造的とさえ言えるプロセスなのである。改善の成果を見るのは楽しいものだ。時に万感胸に迫るものがあると言っても過言ではない。
記録し反省することによって、より良い大会を、より効率良く運営することができる。レベルダウンすることなく、確実にステップアップすることができる。回数を重ねるにつれて着実に良くなっていく大会はスムーズにシフトアップするクルマのようだ。
すべての大会がそうなることを願ってやまない。
事実こそ雄弁!新旧エピソードの数々
今回のテーマに関係ありそうなトピックスを新旧織りまぜて紹介しよう。
究極の記録、ビデオ
記録の中で最も生に近いものと言ったら、何といってもビデオであろう。今日、大相撲でも物言いの際には審判団はビデオ室と連絡を取りながら判断を下す。
平成に入った頃からか、インカレをはじめとして、ゴール地点にビデオカメラを設置する大会も珍しくなくなってきた。
先日の東日本大会(『大雄の鉄人』)でも一部不明になってしまった着順の特定に、ビデオが決定的な役割を果たしたとのこと。ゼッケンを付けたランナーで不確定部分を絞り込み、さらに、あるランナーが役員にガッツポーズをしてゴールしたことにヒントを得て、ゴール担当の大学の交遊関係を補助的な情報として活用しながら、捜査(?)を進めていったそうだ。そして、最後に決め手となったのは「音声」だったという。
サンスーシの尾上秀雄氏は「ビデオが音声の録音機でもあることをもっと利用すべきです。ゴールはてんやわんやになりがちなので、音声のメモは便利。何か気づいたことがあれば怒鳴れば良いわけですから。」と言う。なるほど!!VTRはボイスレコーダーでもあったのだ。カメラがあさっての方向を向いていても、時刻と音声は記録される。今後VTRを使わない大会は時代遅れと言っても良いであろう。
千葉大の経験生きる「荒天中止」
私の手元に「成東OL大会のお知らせ」という1枚の葉書がある。表を見ると、なんと額面が20円だ。今では当たり前の「荒天中止」という表現を、私が初めて見たのがこの葉書だったように思う。新鮮な響きを感じた記憶がある。
この大会は、当初昭和54年10月7日に開催の予定だったが、大雨洪水警報が発令されたため延期になったのである。その延期の通知が、この葉書である。
それ以前は「雨天決行」一辺倒であった。事実、その同じ日、大雨の中、ほど近い東金で京葉OLCが大会を決行している。
ちなみに「成東OL大会」とは、今でいう第2回千葉大大会のこと。まだまだマイナーだったためか、日程がバッティングしている。時代の流れを感じないでは、いられない。
不運の連続、千葉大大会
嵐(第2回)、狩猟がらみのテレイン変更(第5回)、停電事故(第6回)、ハチの大発生(第8回)──とにかく、千葉大大会は、ついていない。もしかしてもしかしたら狩猟とハチは回避できたかも知れないが、アンラッキーと言っても良いであろう。
めったにないことではあろうが、停電はすさまじい。どうなるかご存じだろうか?──パソコンが使えない?それくらい大した問題ではない。断水が一番こわい。トイレが使えないのである。電気ポンプで水を屋上のタンクまで汲み上げているためだ。これは半端じゃない。同大会の記念誌(※)にも民家のトイレを借りて対応した事実が記されている。
こればかりは祈るしかないか。
(※:千葉大学オリエンテーリング大会 10回記念小冊子)
早大OC大会における記録と改善策の例
私が計センをサポートしていた11年の間に実施・検討した改善策の例を示す。
計センについて言えば、大きく事情が変わってはいるが、PDCAサイクル(Plan→Do→Check→Action)の一例として見ていただきたい。
(とは言え、今日の速報に関する問題も大部分が運用全体の問題であるので、こうしたPDCAの活動こそが大切である。)
| 第17回OC大会の速報所要時間実績 | |
| ゴール時間帯 | 計セン処理完までの平均所要時間 |
| ~11時40分頃 | 約24分~30分 |
| ~11時50分頃 | 約30分~35分 |
| ~12時10分頃 | 約40分~45分 |
| ~13時10分頃 | 約45分~50分 |
| ~13時20分頃 | 約40分 |
| ~13時30分頃 | 約35分 |
| ~13時50分頃 | 約20分~30分 |
※ゴール~会場間のCC運搬時間(所要:20分弱)を含む。歩きの部分と方向転換などで時間がかかる。
上記はパソコンでの処理終了までの所要時間。例年に比べ、運搬時間分が上乗せになった感じ。やむを
得ないところか。ただ、あと1台、あと1人いたら、平均して数分程度は短縮できたと思う。
また、短冊(速報用紙)を切る時間と貼り出す時間は上記計測対象外となっている。
これだけでは改善すべきポイントが不明確なので改善を実施
(計セン搬入時に時刻をCC束(レシート)単位に搬入時刻を記録するように改善)
↓
| 第20回OC大会の速報所要時間実績 | ||||
| ゴール時間帯 | 計セン処理完までの平均所要時間 | 計セン搬入まで | 計センでの処理 | ゴール |
| 10:30~11:00 | 12分56秒 | 10分37秒 | 2分19秒 | 19名 |
| 11:00~11:30 | 11分58秒 | 8分40秒 | 3分18秒 | 98名 |
| 11:30~12:00 | 15分39秒 | 11分20秒 | 4分19秒 | 130名 |
| 12:00~12:30 | 21分51秒 | 12分55秒 | 8分56秒 | 153名 |
| 12:30~13:00 | 24分41秒 | 15分50秒 | 8分51秒 | 115名 |
| 13:00~13:30 | 19分02秒 | 13分48秒 | 5分14秒 | 86名 |
| 13:30~14:00 | 18分49秒 | 14分03秒 | 4分46秒 | 54名 |
| 14:00~14:30 | 13分11秒 | 9分51秒 | 3分20秒 | 26名 |
| 本資料は事前申込の完走者を対象に調査したものです。 | ||||
↓
(ピーク時に間隔が広いのはやむを得ないとしても)
ピーク後の搬入ペースが11時台に比べて落ちていることが判明
↓
【改善策の例】運搬間隔についてのルール化等を行い、一定間隔での運搬を徹底する
『クッキングタイマーを導入して5分ごとにブザーを鳴らす』というような具体策も考えられるだろう。
このほか、対策未実施の速報掲示までの総時間について測定する仕組みを考案し、実施する必要がある。
↓
たとえば、ビデオカメラ+HDDレコーダをセットして、速報所の模様を終始録画しておくことにより、
長時間にわたって、速報の貼り出し時刻や、参加者の声といった生の情報を記録できそうである。
また、この大会では、正規の係以外の者にちょっと運搬を頼んだところ、運搬業務の重要度について
理解しておらず、ゴールから計センに直行せずに寄り道をしてしまい、速報が遅れるという問題も発生
した。
↓
こうしたミスを個人のせいにせず、全員に『各業務の持つ意味』をきちんと周知すると共に、思いつ
きでの運営変更(良く言えば、臨機応変の運営)には注意を払うようにするべきである。
